2021年8月末をめどに米軍の本格的撤退が進められている『アフガン問題』に着目しながら、 新たに再編されようとしている世界秩序(米支新冷戦)の行方を考察していきます。
本稿は【前編】です。
画像説明:【アフガン怒りの撤収】様々な思惑を乗せ撤退する米軍を見つめるタヌキの図
アメリカ軍・アフガニスタンから続々撤退
今年5月以降、段階的に進められていた米軍のアフガンからの撤退。タリバンは米軍の動きに呼応するかのように勢いを強め、8月15日には首都カブールを制圧。アフガニスタン政府を崩壊へと追い込みました。
バイデン政権の「対アフガン」
米軍撤退を決断したバイデン政権に対し、米国内では激しい責任追及論が展開され、「予期された混乱劇を(バイデン政権は)なぜ引き起こしたのか?」をふくめ、様々な”憶測”が飛び交うようになっています。
バイデン米政権のアフガン政策に批判高まる 米世論は変わるのか
アフガニスタンの反政府勢力タリバンは電光石火で国中を席捲(せっけん)し、15日にはついに首都カブールに入り大統領府を押さえた。その猛攻を受けてアメリカでは、軍や政界、アフガニスタン系アメリカ人の間で、駐留米軍を急ぎ撤退させたジョー・バイデン大統領への批判が高まっている。しかし、国民の大多数は、バイデン大統領の判断を支持しているようだ。今のところは。(~中略~)
離脱を約束したバイデン氏
アメリカ最長の戦争を終わらせるというバイデン大統領の決定は、20年間の苦労と犠牲を無駄にしたと、批判の声が出ている。人道危機をもたらし、アメリカの信頼を損なったと。
とりわけアフガニスタン紛争に直接かかわってきた多くのアフガニスタン人やアメリカの軍人や政治家は、カブールの政府が自分たちだけで国の安全を守れるという大統領の見解を、以前から疑問視していた。
バイデン氏は、アフガニスタンから離脱させるという長年の約束を実現すると決めた。15日の首都陥落を受けて、果たしてアメリカの有権者はその決定をまもなく後悔することになるのか、様々な観測が飛び交っている。
米軍を撤収させるというバイデン氏の判断は、意外なものでは決してない。バラク・オバマ政権の副大統領だったころから、バイデン氏はアフガニスタンでの軍事作戦は限定的なものであるべきだと力説していた。(~中略~)
アフガニスタン情勢の変化:アメリカの作戦展開とタリバンの進攻
2001年10月: 9月11日の米同時多発テロを受け、ブッシュ米政権主導によるアフガニスタン空爆開始
2009年2月: アメリカはさらに兵士1万7000人の増派を決定。NATO加盟国もアフガニスタンへの増派などを約束
2009年12月: バラク・オバマ米大統領(当時)は、アフガニスタン駐留軍を3万人増員し、計10万人に拡大すると決定。一方で、2011年までに撤退を開始すると表明
2014年10月: アメリカとイギリスが、アフガニスタンでの戦闘作戦を終了
2015年3月: オバマ大統領が、駐留軍の撤退延期を発表。アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領の要請を受けたもの
2015年10月: オバマ大統領が、2016年末までは兵士9800人をアフガニスタンに残すと述べた。これ以前は、1000人を残し全軍を撤退させると約束していた
2016年7月: オバマ大統領は「安全保障上の不安定な状態」を理由に、2017年には米兵8400人が駐留すると発表。NATOも駐留を継続することに合意したほか、2020年までアフガニスタン政府軍への資金援助を続けると強調した
2017年8月: ドナルド・トランプ大統領(当時)が、タリバンの勢力拡大を受けた増派表明
2019年9月: アメリカとタリバンの和平交渉が決裂
2020年2月: 数カ月におよぶ交渉の末、アメリカとタリバンがドーハで合意に至る。アメリカは駐留軍撤退を約束
2021年4月: ジョー・バイデン大統領、9月11日までに駐留米軍を完全撤退させると表明
5月: 米軍とNATO各国軍の撤退開始
5月: タリバン、南部ヘルマンド州でアフガニスタン軍へ大攻勢開始
6月: タリバン、伝統的な地盤の南部ではなく、北部で攻撃開始
7月2日: カブール北郊にあるバグラム空軍基地から、米軍やNATO加盟各国軍の駐留部隊の撤収完了
7月21日: タリバンが半数の州を制圧と米軍幹部
8月6日: 南部ザランジの州都をタリバン制圧。タリバンが新たに州都を奪還するのは1年ぶり
8月13日: 第2の都市カンダハールを含め4州都がタリバン支配下に
8月14日: タリバン、北部の要衝マザーリシャリーフを制圧
8月15日: タリバン、東部の要衝ジャララバードを無抵抗で制圧。首都カブール掌握
BBCNEWSjapan(2021/8/16配信記事)
お時間に余裕のある方は是非リンク元の記事全文に目を通してみてください。
日本の新聞社からは伝わってこないアフガン情勢の深部について理解が得られるかと思われます。
トランプ氏の「対アフガン」と、バイデン批判
アフガン問題に20年もかけて何一つ得るものが無かったと揶揄されるアメリカの無様な撤退劇・・
バイデン民主党の政敵、『トランプ陣営』からの政権批判は最高潮に達しています。
(先の大統領選挙の正当性にも絡め、数々の憶測・罵声が飛び交っています)
トランプ氏、バイデン氏に辞任要求 タリバン急進撃の責任取るべき
【8月16日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)前米大統領は15日、米軍が20年近く駐留してきたアフガニスタンから撤退を進める中で、旧支配勢力タリバン(Taliban)が勢力を急拡大していることの責任を取るべきだと主張し、ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領に辞任を求めた。
トランプ氏は、「ジョー・バイデンが、アフガンで今の事態が起きるのを許した責任を取り、不名誉な形で辞任する時が来た」と述べた。「ジョー・バイデンがアフガンに対して行ったことは語り草となる。米史上最大の敗北の一つとして語り継がれるだろう!」
さらに、米国内での新型コロナウイルスの感染急拡大や移民・経済・エネルギー政策についてもバイデン氏を非難した。
2001年に米主導の連合軍の攻撃で政権を追われたタリバンは、破竹の勢いで全土を制圧しつつあり、15日には首都カブールも掌握した。
しかし、今年1月に大統領に就任したバイデン氏は、撤退期限を延期する一方、無条件とした。
トランプ氏は、この措置についてバイデン氏をたびたび非難しており、自身が今も大統領であるならば、「撤退は今とは全く異なる、はるかに成功したもの」になっていたはずだと主張している。(c)AFP
AFPBBNews(2021/8/16配信記事)
トランプ氏はタリバン幹部との間に、米軍のアフガン撤退についての合意を取り付けていました(2020年2月合意・撤退予定は今年五月)。
これに先立ち同氏は米側への直接攻撃、米軍撤退後のテロリズムの禁止を確約させています。
「アメリカ(軍・民間人)に被害が及べば過去に未経験なほどの報復を敢行する。」(要約)と、タリバン側に警告。
実際、トランプ氏がこの発言に基づくように”有言実行”(米軍犠牲が発覚するたびにタリバン拠点を大規模空爆)に移すとタリバンはその矛先を収め、以降、米側から犠牲者が出ることは少なくなったとされています。
トランプ氏は自身が苦労の末タリバンとの間に取り付けた合意のすべてをふいにするかのようなバイデン政権の手法を受け「米史上最大の敗北の一つとして語り継がれるだろう!」と、痛烈なる非難を浴びせています。
アフガン撤退そのものには賛同するトランプ氏でさえ激怒する事となった最大の理由は・・
【トランプ氏の語るバイデン政権の(対アフガン政策)批判要約】
- 「敵に背を向けながら撤退してどうする!」(8月20日現在:約1万人もの米国民がアフガニスタンに残っている)
- 「強いアメリカは最後の瞬間まで雄々しくなければならず、民間人に犠牲者が及ぶなど言語道断」
- 「長年育て上げた首都付近の親米部族(協力者)が、カウンターの危険にさらされる」(SNSなどを通じその被害状況が続々と伝えられている)
- (アメリカの弱腰を見た)「タリバン(その他のイスラム武装勢力)は、私(トランプ氏)との合意を反故とし、今後(対米含む)テロリズムを加速するかもしれない」
これらに尽きるのではないでしょうか?
シナの「対アフガン」
地理的にシナとアフガニスタンとは、ウイグル南西部の山岳地帯とカシミールを挟み隣接しています。
そんなシナは、”この日”が到来する事を前もって予期していたほどの速さでタリバン軍事勢力の正当性を容認。最大限の賛辞を送りながらタリバンとの友好を深めようとしているようです。
中国、着々とタリバンとの関係構築…武力制圧を事実上容認
【北京=大木聖馬】中国の 習近平 政権は、タリバンが主導する形でのアフガニスタンの政治体制構築に協力していく方針だ。復興プロセスを後押しし、米軍撤収後の中央アジア地域での影響力拡大につなげていくとみられる。
中国外務省の 華春瑩 報道局長は16日の記者会見で、「アフガン国民の意思と選択を尊重する」と述べ、タリバンによる武力制圧を事実上、容認した。「引き続きアフガンと友好協力関係を発展させ、和平と復興のために建設的な役割を果たしたい」とも述べた。
習政権はタリバンがアフガンで勢力を拡大させる事態を見据え、関係構築を着々と進めてきた。7月下旬には、タリバンのナンバー2を天津市に招き、 王毅 国務委員兼外相が会談した。政府ではなく対立勢力のメンバーと会談するのは異例で、王氏は、タリバンを「アフガンの重要な軍事・政治勢力」と持ち上げた。
習政権はアフガンが不安定化し、隣接する新疆ウイグル自治区にテロ組織が流入する事態を強く警戒している。習政権はタリバン側が期待する経済支援をテコに、テロ組織との関係断絶を強く求めていく考えだ。(以下略)
読売新聞オンライン(2021/8/17配信記事)
表向き新聞記事では、シナの反政府ウイグル・イスラム勢力とテロ組織が手を結ぶことを怖れた(シナ側の)安全保障面を強調していますが・・
そんな与太話、誰が信じると言うのでしょう。
『武器弾薬をタリバン(反政府系イスラム武装組織)側に提供し育て上げた黒幕が、米軍撤退に合わせ出張ってきた』というのが実際のところなのではないでしょうか?
アフガニスタンを巡るアメリカとシナの思惑
アメリカはあの忌まわしき『9.11米同時多発テロ』の報復の為に、 2001年から直接アフガニスタンに軍事介入するようになりました。(テロとの戦い)
対するシナは、ウイグル・東トルキスタンの国内イスラム勢力とアフガンのイスラム過激派が呼応する事を警戒。米軍を中心とした多国籍軍のアフガン介入を注視しながらも、アフガン国内の武装勢力のどの勢力が台頭してもいいように様々な秋波を送り続けていました。(武器弾薬・燃料・食料)
もちろんシナの狙いはそればかりではありません。
アフガニスタンは中央アジアの交通の要所として古くから重要視され、さらに軍事的にも過去には度々大国間の戦乱の舞台となった経験からも、同地域の現地武装勢力を自陣営に取り込むことは、シナが進める経済支配の野望『一帯一路』の達成には欠かせない至上命題となっていました。
やっぱシナ、野心・欲望以外じゃ動かないもんね~
アメリカにとっては対イスラム勢力の抑え込みとともに、肥大化するシナへの牽制としてもアフガニスタンの地政学的重要度は無視できないものだったに違いありません。
実際、約20年におよぶ介入はそれを物語るには十分で・・だからこそ不可解に感じられるのは、民間人を置き去りにする速さで進められた今回の米軍撤退劇の方で、それを単にバイデン政権の不手際と糾弾してよいものか、はたまた決定の背後には何らかの裏取引や同意がなされていたのではないのか?と深読みした方が良いのか・・今後続々と明るみになるであろう続報の検証が待たれます。
アメリカのアフガン撤退理由
当初(2011年頃)、アメリカは対アフガン開戦後10年目を目途に同地からの撤退を決定していました。しかし現地政府(ハーミド・カルザイ大統領)からの度重なる要請や、同地の治安維持・テロ組織の殲滅が未完成だったことも手伝い米軍の撤退時期は遅れに遅れてしまい、それは米民主党政権から共和党政権(トランプ氏)に移行した後も改善されることはありませんでした。
2017年~、アフガン駐留中の米軍兵士に犠牲者が続出している状況を重く受け止めたトランプ政権は、タリバン組織との粘り強い直接交渉の末、一定の合意を得る事に成功します。(米兵への攻撃・他勢力との共闘・他地域への進出・テロ行為の禁止と引き換えに米軍の撤退を確約)
つまり米側では、民主党政権(オバマ・バイデン)も、共和党政権(トランプ)も、『アフガン撤退』の一点についてはすでに既成事実化されていたのです。
今現在、大混乱の内に進められているアフガンからの米軍の撤退。
20年もの長き期間を無駄にする事となっても、撤退を急ごうとしている米側には以下↓のような切実たる事情があるといわれています。
【アメリカのアフガン撤退理由】
- 米側の犠牲者の増加・・2001年~現在「死者約2400人(戦闘員約1900人・非戦闘員約500人)」「負傷者約20000人」
- 莫大な戦費・・2001年~現在「約1兆ドル(約110兆円)」(アフガニスタン・ISILイラク・シリア・パキスタンでの軍事費総額は約700兆円規模)
- 米国世論からの反発・・犠牲者の増加・国内福祉を置き去りに進められる外交戦略(かさむ戦費)・海外での米国民をターゲットとしたテロの横行
- 新たなる冷戦構造・・シナの台頭を受け、米支配地域の再編が試みられている(米側がシナの肥大化に押され防衛ラインを引き下げている*アフガンはその一環*)
あちゃ~
こりゃ~無理だよね。
死者約2400人とか約1兆ドルとか~
期間も人員も経費も・・掛けただけの対価には程遠い実績に、アメリカ国内では(アフガン介入)反対論が噴出していただろうね。
思い返せば2001年、そもそもアフガン軍事介入の”口実”自体が怪しさ満点だったからな~
(おっと、ここは後編で)
世界は新秩序構築へと動き出しています
今後アメリカは自国の国益を度外視してまで世界の警察を行うことはありません。(なお各地でのアメリカ軍展開による功罪については度外視)
この一件(米軍のアフガン緊急撤退)をよくよく紐解いていけば、今後アメリカが「世界の治安維持のすべてには責任を果たすことが無くなった」と宣言したにも等しく、米軍が展開する現地や関係各国から罵声・失望をどれほど浴びたとしても、アメリカは自国益を最優先する観点から自陣営の確認作業を明確にし(関係各国との同盟強化)、米支を中心とした『世界新秩序の構築』(米支新冷戦構想)を急ごうとしている・・という”解”が導き出されるのではないでしょうか?
前編:小まとめ
2021年8月20日現在、未だにアフガニスタンに取り残されているとされる米国民。さらに悲惨なのは(アシュラフ・ガニー大統領)政権や米軍に協力的だった現地住民は、タリバンによる15日の首都カブール制圧以降、統率を失った武装兵から攻撃・略奪対象とみなされる危険性が指摘されており、今回のバイデン政権による米軍緊急撤退行為が各方面に大混乱を呼び起こしているようです。
実際残念な事に海外メディア・現地人からのSNS情報など・・アフガンでの惨状や犠牲の具体例が刻々と伝えられています。
前編はここまで。
それでは後編ではアメリカのアフガン戦略から読み取れる世界情勢を分析し、大胆な憶測を交えながら新たなる世界秩序の行方(米支新冷戦構想)を考察してみたいと思います。